【留学日記Part2】デンマーク工科大学:笹沼菜々子さん(理工学研究科博士後期課程)

新エネルギー研究部門

弘前大学 学長特別補佐の本田明弘先生(地域戦略研究所客員研究員)が指導している理工学研究科博士後期課程3年の笹沼菜々子さん。
現在、デンマーク工科大学(Technical University, Denmark)に1年間の予定で留学中です。現地レポートの続編が届きました。

笹沼菜々子さん【理工学研究科博士後期課程】

大変ご無沙汰しております。前回の投稿から約半年が過ぎました。現在、デンマーク工科大学に留学させて頂いている笹沼です。今月で、8か月目を迎え、留学期間も残り3か月となりました。
さて、先月の末にサマータイムになり、日照時間は長く感じておりますが、最低気温は2,3°とまだ冬用のコートやマフラーが必要なほど寒いデンマークであります。
こちらの冬は通常、雪が地面を覆うほど降り、2,3日後には溶けるようですが、今年は、雪だるまが作れるほど例年よりも多く雪が降りました。

雪が降った後の様子(大学キャンパス内)

寮の敷地内

今回は、大きく4つに分けてレポートさせていただきます。

  • 風車メーカー、Vestas訪問について
  • 陸上ウィンドファーム訪問について
  • 生活について
  • まとめ

【風車メーカー、Vestas訪問について】

2023年の10月に風力発電機の設計、製造、販売会社でデンマーク・オーフスに本拠を置くVestasの本社を訪れました。
Vestasは2014年に三菱重工と合併を果たし、MHI Vestasを設立し、洋上風車のプロジェクトを数々成し遂げました。一方、2020年に三菱重工業は風力発電開発から撤退し、残念ながら現在は国内で大型風力メーカーがない状態となっています。
今回のVestas訪問は、Vestas自身がTechnology Dayという形でデンマークの2つの大学、デンマーク工科大学(DTU)、オールボー大学(Aalborg)の学生を招き、私もDTUの枠で参加させていただきました。2時間という短い滞在時間でしたが、Vestasの本社で働く人の熱気や働くモチベーションを感じました。

Vestas本社のロゴ前で

ポスターセッションの一つに見たことのない下の図にあるような風車の模型が展示されているのを発見し、話を聞いてみました。
風車のブレードの根元にケーブルが取り付けられ、風車の回転による揺れを抑え、最終的に荷重を最小限にするような技術だそうで、開発段階だそうです。
ある講演では、風車の大量生産や巨大化するフェーズは終わりを迎え、持続可能な風車づくりにシフトすると社員の方が発言されていました。
40年以上もの風車製造の経験があり、受風面積の直径が200mを超えるような風車を製造するVestasですが、やはり、スケールの大きさには限界があるようで、今後は風車のブレードのリサイクル化が必要だと強調していました。風車の寿命は陸上で15年、洋上で20年といわれていて、それを超えて長く使うためには、強固な材料や設計が必要です。
一方で、部分的に使えるものでも安全上の観点から撤去せざる終えない風車も出てきていて、最小限の材料でいかに最大限のエネルギーを引き出せるのかが今後のカギとなってきます。

ケーブルが風車ブレードに取り付けられた風車模型

本社内に展示されている風車ブレードの一部

【陸上ウィンドファーム訪問】

まだ、雪が降りしきる今年の1月に、コペンハーゲンから80kmほど西にいった場所に位置するKragerup Godsウィンドファームを訪れました。
大学院生向けの授業の一環として、ウィンドファーム見学が行われ、私も参加させていただきました。

風車の前で

こちらには、スペインに本拠地とする風車メーカー、Siemens Gamesa Renewable Energyの3MWの風車が5基立ち並んでいます。
このウィンドファームの特徴は、企業が運営しているのではなく一般的な農家さんが経営している点です。こちらの農家さんはいままで農業に専念されておりましたが、2022年の4月からEUとデンマーク政府による資金を用い、風力だけでなく太陽光、水素の製造に加えホテル経営を行っています。
毎年、風力で15GWh、水素を700-900トンと市民にとっては相当な電力を製造し、送電網に発電した電力送っています。風車を建てる前には、近所の方には丁寧な説明を繰り返し、現在では苦情などは入っていないそうです。これは、元々の近所同士のコミュニケーションや信頼関係があってこその成功例だと思います。
また、こちらを経営する農家かつ土地を管理するOlavさんのお話を伺いましたが、グリーンなエネルギー社会のためであれば、未知の世界であっても取り組みたいと家族で意見が一致し、再生可能エネルギー事業を始めたそうです。

ウィンドファーム全体

当日は、電線のメンテナンスで風車が止まっていて元気に回る様子は見られませんでしたが、その代わりに風車の真下にいき、風車の中を見学することができました。風車が止まっていることで、風車のブレードをよく観察することができました。ブレードの根元から先にまで何本の線がみえるのは、Vortex generator(VG)といわれるもので、意図的に乱流を生じさせることで空力特性を改善する装置です。取り付けられる場所によって役割が異なり、根元の方は、風車を回転させる揚力を向上させ、先端の方はブレードの表面が摩耗の進行を抑えたり、騒音の軽減につながるとされています。
ここまで多くのVGをもつブレードを見たのは初めてだったので、貴重な経験でした。

風車を下から見た様子

【生活について】

12月になると、一気に国全体がクリスマスモードに包まれます。オフィス内もいたるところにロウソクやクリスマスの飾りつけで彩られます。日照時間はとても短く、家からオフィスまでの行き来で日の光を浴びることはないですが、建物の中はその分、明るい気分にさせてくれるような雰囲気です。
欧州の人は、一般的にクリスマスは家族と過ごす時間なので、欧州圏内から来られている方は、クリスマス休暇は自国に帰っていました。私は、デンマーク人の友人家族のご自宅に招かれ、デンマークの伝統料理をふるまっていただきました。
デンマークでは、クリスマスには豚肉をオーブンで焼いたものに甘じょっぱいリンゴのソースをかけて食べるのが定番です。付け合わせには、蒸したじゃがいもや甘酸っぱい味の紫キャベツの蒸し煮を頂きます。

コペンハーゲン中央駅

クリスマスディナー

オフィスの装飾

クリスマスの飾り

【まとめ】

今回は、2023年の秋から年始までの報告をさせていただきました。弘前市では、昨年の冬は雪があまり降らなかったと伺いましたが、デンマークでは普段そこまで降らないのに今年は大雪の年に当たってしまいました。青森からきた身としては、寒さや雪には慣れていると思ったのですが、最低気温が-10℃に加え、強風には相当堪えました。オフィスまでバスや電車で通っていて、電車のホームにはガラスで囲われた待合スペースに椅子はありますが、外気がスースーと入ってくる場所で、待ち時間をどう乗り切るかが昨冬最大の難題でした。無事、冬を乗り切り、現在4月に入り、やっと春らしい季節となりました。まだ、最低気温は10℃を下回りますが、日が落ちるのは20時と不思議な季節ですが、体調に気を付けて残りの期間を過ごしたいと思います。

おまけの情報ですが、デンマークには意外にも日本食が手に入るアジアンマーケットが多くあります。値段は、日本に比べると4~5倍となかなか頻繁にはいけませんが、日本食が恋しくなった時に、足を運んでいます。街中にも寿司屋やラーメン屋さんが多くあり、日本食が世界中で親しまれていることに、日本人として誇りを感じております。次の留学レポートでは、先月スペイン・ビルバオで行われたヨーロッパ最大の風力展示会Wind Europeでの経験をお話しできればと思っております。

アジアンスーパーで売っている餅

ラーメン店にて